市場調査におけるアンケートとは|
基本プロセスと5つの注意点
市場調査ではアンケートを用いることが多く、生活者の実態調査や認知度調査など幅広い用途で活用されています。
今回は、市場調査におけるアンケートの活用例や実施プロセスのほか、アンケートを作成する際に知っておきたい注意点を5つ紹介します。
市場調査に欠かせないアンケート
市場調査は、市場の概況を把握するために行う調査です。市場にまつわるさまざまなデータを収集・分析し、商品開発やマーケティング戦略の立案に役立てます。
市場調査に欠かせない調査手法のひとつがアンケートです。まずは、アンケートの概要と活用例を見ていきましょう。
定量データを収集する代表的な手法
アンケートは定量調査の代表的な手法です。多数の対象者に同じ調査票(質問票)を配布し、回答を集計・分析することで全体の傾向などをつかみます。
基本的に、調査結果を数値や割合で示すことを前提としているため、「はい・いいえ」などの選択肢から選んでもらう設問で構成することが一般的です。
アンケートの実施方法は、紙の調査票で行う方法(郵送調査や街頭調査など)のほか、Webの調査票を用いたネットリサーチ(インターネット調査)などがあります。会場調査やホームユーステストなどでもアンケートが用いられています。
市場調査におけるアンケートの活用例
アンケートはさまざまな市場調査に活用することができます。主な活用例を以下にまとめました。
ライフスタイル調査 | 生活者の日常生活における習慣や行動パターン、価値観、趣味などに関する情報を収集する調査 |
需要動向調査 | 対象カテゴリーにまつわる生活者の不満やニーズを探る調査 |
ユーザー実態調査 | 商品・サービスのユーザーの利用実態(購入理由や使用期間、使用頻度など)を把握するための調査 |
認知度調査 | 自社商品や競合他社商品が、市場にどのくらい認知されているかを調べる調査 |
ブランドイメージ調査 | 対象ブランドを認知している人が、そのブランドに対してどのようなイメージをもっているかを調べる調査 |
価格調査 | 商品・サービスが市場で受容される価格帯(適正価格)を調べる調査 |
以下の記事も参考にしてください。
ブランド認知度調査とは|目的・基本設計・ポイント・実施方法を解説
価格調査とは|適正なプライシングに役立つ調査手法3つ
アンケート調査の基本プロセス
基本的に、アンケート調査は以下のような手順で実施します。
調査企画
まず、アンケートのアウトラインを設計します。以下のような項目を検討し、「何のために、どのような調査を行うのか」を明確にします。
- 調査の目的やマーケティング課題
- アンケートの対象者
- 実施規模(サンプルサイズ)
- 調査方法
- 調査スケジュール
- 調査結果の活用方法
調査項目の洗い出し
企画内容に沿って調査項目を洗い出します。調査項目は、対象者の属性情報を確認する項目と、調査テーマに関する項目に大別されます。
項目の例を以下に挙げます。
<属性に関する項目例>
- 年齢・性別
- 居住地域・住居形態
- 家族構成
- 職業
- 所属部署・役職
<調査テーマに関する項目例>
ユーザー実態調査
- 商品の認知状況・認知経路
- 購入場所(スーパー、コンビニ、ドラッグストアなど)
- 購入理由
- 商品を選ぶ際に重視する点
- 使用期間
- 使用目的
- 使用シーン・場所
- 満足点・不満点
- 今後の購入意向 など
ブランドイメージ調査
- 認知状況
- 購入経験
- 印象・イメージ
- 好感度
- 購入意向 など
調査票の設計
調査項目を元に調査票を作成していきます。調査票は、アンケートの概要を記載した依頼文と回答者の属性情報および調査テーマに関する設問で構成することが一般的です。
設問は以下のような手順で作成します。
- 設問の順番を決める
- 各設問の回答形式を決める
(単一回答、複数回答、自由回答など) - 質問文を作成する
- 回答の選択肢を設定する
作成した調査票は配布前にテストを行います。回答者の目線で一通りアンケートに回答し、設問の流れや回答の分岐などに問題がないか確認しましょう。
調査票の配布
調査票が完成したら、対象者に配布します。アンケートの実施方法によって、以下のような配布方法があります。
- 紙ベースのアンケート
― 調査会場や店舗、イベント会場などで直接配布
― 郵送 - ネットリサーチ
― メールやSMSなどでアンケートURLを配信
― WebサイトやSNSなどにアンケートURLを掲載
― 広告や販促物などにQRコードを掲示
回収・集計・分析
回答データを回収し、以下のような手法で集計・分析を行います。
- 集計方法
― 単純集計
― クロス集計 - 分析方法
― 時系列分析
― クラスター分析
― コレスポンデンス分析
分析データや調査で得られた気づきなどはレポートにまとめ、関係者と共有します。
以下の記事も参考にしてください。
アンケート調査の分析方法|基本的な集計方法と代表的な分析方法5つ
アンケートを作成する際の注意点
アンケートを作成する際に留意しておきたいポイントを以下に挙げます。
設問を増やしすぎない
設問数が多いアンケートは回答者のモチベーション低下につながり、途中で離脱されることがあります。アンケートは生活者やターゲットの意見を収集できる貴重な機会なので、「あれもこれも」と設問数を増やしてしまいがちですが、完答してもらえなければ元も子もありません。
優先度の低い設問を省くなどして調整し、設問数はできる限り20問以内に絞りましょう。目安として10分以内で回答できるアンケートであれば、完答してもらえる可能性が高まります。
回答しやすい順番にする
回答者の負担を軽減するためには、スムーズに回答しやすい設問順にすることも重要です。時系列が行ったり来たりする、もしくは思考を巡らせないと回答できない設問から先に聞かれるなどの、回答する際に違和感を感じるようなアンケートでは、回答者にストレスを与えてしまいます。
設問順は調査目的によって最適化する必要がありますが、基本的な考え方は以下の通りです。
- 「過去→現在→未来」と時系列に沿って聞く
- 容易に回答できる項目から先に聞く
(例:普段の行動や知っていることなど) - 評価や予測など、思考が必要な項目は後で聞く
- 先入観(バイアス)や回答の誘導につながる項目は後で聞く
専門用語や略語を使用しない
質問文や選択肢は、世間一般で通用する平易な言葉で作成することが基本です。例えば、コンビニエンスストアやドラッグストアを「CVS」や「DS」と略語で表記すると、意味を知らない人は選択できません。専門用語や略語を使うと回答者を混乱させるだけではなく、回答の精度が低下するリスクがあるため注意しましょう。
あいまいな聞き方をしない
質問文の表現があいまいだと、回答者によって解釈にバラつきが生じ、意図とは異なる回答が混在することがあります。例えば以下のような質問は典型例です。
NG例:「電子レンジをどのくらいの頻度で使用していますか」
この質問には主語がなく、回答者自身のことか家族のことかわからないため、「あなたは~」「あなたのご家庭では~」など回答対象を明確に示します。
また、以下のように期間が明確に示されていない質問文も誤解を招きます。
NG例:「あなたは最近、ラジオを聞きましたか」
この場合は「あなたは直近1ヶ月以内に~」「あなたは直近3ヶ月以内に~」など、いつのことを聞いているのかを具体的に示しましょう。
一つの質問に二つ以上の問いを入れない
一つの質問で二つ以上の項目について問うことをダブルバーレル質問と言います。例えば、「このビールはのど越しが良くて美味しいと思いましたか」という質問文には、「のど越しが良かったかどうか」と「美味しかったかどうか」と評価対象が2つ含まれています。
ダブルバーレル質問は回答者を迷わせる上、どちらの項目についての回答・評価なのかが判然としないため分析の精度を低下させてしまいます。このケースでは、のど越しと味の評価を分けて聞くことで、正確な回答が得られます。
アンケートをさまざまな市場調査に活用しよう
市場の状況を把握するためには、アンケートで多数の生活者の実態データを収集し、定量的に集計・分析するプロセスが欠かせません。アンケートは、ライフスタイル調査や需要動向調査、価格調査など幅広い市場調査に活用できる汎用性の高い手法です。ここで紹介した実施プロセスや注意点を参考に、市場調査にアンケートを取り入れましょう。